もてまん
「何だか、楽しみね」
綾が微笑む。
その笑顔は、とても美しかった。
「僕も千鶴子さんに出会って、生きることが楽しくなったんです。
今まで何かこう、目的もなくダラダラと毎日を送ってたんですけど、人生って、良く見てると、色んなことが実は起きてるんだってことがわかってきて……」
「どういうこと?」
「僕の周りで起こっていることは、僕が知ってることも知らないことも、全て。
それが絡み合って、今が作られてるんだなって」
「そうかもしれないわね」
「綾さんとこうして話してるのだって、偶然にしては出来すぎだと思いませんか?」
「そうね、何であなたみたいな若者とこんな話、してるのかしら……」
「きっと、何か意味があるんだ」
「何よ、それ」
「その意味を考えることも大切なことだって、千鶴子さんが……」
「そう、千鶴子さんがね……
あたしも、千鶴子さんとそういう話、したかったな。
何でかしら、千鶴子さんはあたしにとっては母のような人なんだけど、千鶴子さんにとってのあたしは、一人の音楽家としての域をでなかった。
そのかわり、あたしには父がいたけどね」