もてまん
四時を少し回った頃、居間の扉が開いて、舞と増田が二人して部屋に入って来た。
「あら、お父様、お早いじゃない」
綾が、二人を気遣って声をかけた。
「いや、今日はまず演奏を拝聴するのが目的だからな。
本格的なレッスンは次からだ」
「舞さん、だったかしら?
覚悟しておくのね。
父のレッスンは相当厳しいわよ」
「綾さん、そんなに舞を怖がらせないでくださいよ」
繁徳が慌てて、綾を睨んだ。
「あら、あたし大丈夫よ。覚悟はできてるの」
舞がそんな風に言って、繁徳を制した。
「千鶴子様も舞さんのこと、今どき珍しく根性があると褒めてらっしゃいましたよ」
「千鶴子さんが?
じゃあ、なお更、頑張らなくちゃ!」
舞の頬が紅潮してくる。
(舞、無理してるんじゃないだろうか?)
「舞、お茶の用意してたんじゃなかったっけ」
「あっ、そうだった。
お二人共、お掛けになっていて下さい。
すぐ、お茶を入れますから」
キッチンに向かう舞の背中を、繁徳は追いかけた。