もてまん
(本当は心配で仕方がないんだろうな)
増田の表情からは、感情は読み取れない。
でも……
できることなら、ベッドに縛りつけて、出来るだけ安静にして、出来るだけ長く生きて欲しいと思っているのだろう。
繁徳はそんなことを想像していた。
「僕達は土曜に会いに行くつもりです。
その頃には面会謝絶も解けてるって聞いたんで」
「父は、毎日会いに行ってるのよ」
「「毎日ですか?」」
繁徳と舞は声をそろえて、聞き返した。
「いや、何かお困りの事があるといけませんから……」
増田は、当然のことだと言わんばかりに頷いた。
(本当に千鶴子さんのこと、愛してるんだな)
それにしても、と繁徳は思う。
(ジャックに会いにフランスくんだりまで出かけていくより、ここに、こんなにも自分を想ってくれる大切な人がいるって、千鶴子さんは分かってないのかな)
繁徳は、いつも彼のことを『増田』と呼びつけにする千鶴子の姿を、咎めるような気持ちで思い出していた。