もてまん
「やっぱり……
あたしもそうかなって思ってたの。
でも変じゃない、千鶴子さんと増田さんの関係。
千鶴子さんは増田さんのこと『増田』って呼び捨てだし、増田さんは反対に『千鶴子様』なんて……
おかしいと思わない?
二人の間には、何かわだかまりがあるのよ」
舞は驚きもせず、大きく頷くと一気にまくし立てた。
「わだかまりって何だよ」
「それは分からないけど……」
「もし仮にそうだとしても、俺達にはどうしようも……」
「あたしは千鶴子さんに幸せになって欲しいの。
千鶴子さん、あたしの為に無理してるようで、辛いの」
そう言った舞の顔は、真剣だった。
(舞が負い目を感じることなんてないのに)
思いもかけない舞の気持ちを、繁徳はどうにかして軽くしてやりたかった。
「そんなことないさ。
千鶴子さんは、生きる喜びを見つけるために頑張ってるのさ。
舞の為じゃない、自分の為にだよ。
舞は千鶴子さんに喜びを感じてもらえるよう頑張ればいいんだよ」
「絶対?」
「絶対!」
繁徳は自身を持って大きく頷いた。
千鶴子もきっとそう願っているという確信があったのだ。
「じゃぁ、あたしピアノ頑張る。
増田さんの厳しいレッスンにも耐えてみせる」
舞がガッツポーズをとりながら、嬉しそうに笑った。