もてまん
長い長い時間をかけて、二人がやっとナースステーションの前にたどり着く。
千鶴子の額には薄っすらと汗がにじんでいた。
手すりにしっかりと掴まり、少し胸を上下させ、上気した顔を繁徳の方にしっかりと向けて、千鶴子が微笑む。
「繁徳、どうだい、たいしたもんだろう?」
「ホント、千鶴子さん、凄いですよ。
もうこんなに歩けるようになったんですね」
繁徳はその様子に胸を締め付けられながらも、笑って答えた。
「そうだよ、来週には退院する予定だからね」
「ちょっと部屋で休憩しませんか?
水曜日の話もあるし、な、舞」
「そうね、千鶴子さん、何か飲みましょうよ」
「岩下さん、無理はいけませんよ」
千鶴子を気遣って、三人が代わる代わるにそう呟いた。
「病院で無理しないで、何処でするんだい。
でも、ま、二人が来たことだし、お茶でも飲もうかね」
麗が、クスッと笑って控え室へ消えた。
三人はそこから、一歩、また一歩と、ゆっくりと進みながら病室へ向かっていった。