もてまん
「そうだった。
あの日は、千鶴子さんに言われた曲を一通り聴いていただいて……」
「増田はなんて?」
「テンポが甘いって、一言」
「一言かい。
そりゃ、あんた優秀だね。
今じゃ、あたりが柔らかく見えるだろうけど、昔は〈鬼の増田〉って言われた鬼教官だったんだよ彼は」
「そうなんですか?
私にはそうは見えませんでした。
信頼できる方だなって」
「信頼ねぇ」
「ええ。
で、次の課題をいただいたんですけど、それが難しくって。
今日もこの後、マンションで練習です」
「彼についてりゃ、間違いないよ」
「はい」
千鶴子はお茶を一口啜ると、なんだかぐったりした様子でベットに横になった。