もてまん
思い出話 渡仏
「あたしが歌を歌いだしたのは、大学出てからのことだよ。
仮にも音大行くくらいだからね、音楽が好きだった。
それがだよ、中学生のうるさい餓鬼ども相手に音楽教えるのが仕事だよ。
毎日がとにかく辛くてね。
かといってピアニストになる器量はないし。
そんな時、一枚のシャンソンのレコードに出会ったのさ。
それが、『エディット・ピアフ』のLP版だった。
フランス語だからね、歌詞の意味なんてチンプンカンプンさ。
でも、オペラのように仰々しくなくて、メロディーが綺麗で、フランス語の響きがよくてねぇ。
あたしゃ、すっかりとりこになったよ。
独学でレコードを真似て練習して、しまいにゃ、ナイトクラブで歌ったりもした。
学校の先生だったのにって?
あんた、するどいね。
そうさ、それが学校の父兄の目にとまって、おとがめがあって。
でも、それがきっかけで、あたしゃ教師を辞める決心がついたのさ。