もてまん
「良かったぁ。
ほら、午後は私が練習に来るじゃない。
夜、シゲが様子を見に来て、夜中には増田先生がお帰りになる。
これで一日、安心だね」
舞がはしゃいだ声でみんなに確認をした。
同時に同意を求めるように繁徳を見る。
(なんだ、俺も毎日様子見に来るのかよ。まぁ、バイトの帰りにちょこっと寄るか、近いしな)
舞の笑顔につられて、繁徳の顔にも笑顔が戻っていた。
「父の卵料理は絶品なんですよ、千鶴子さん」
今まで黙っていた綾が、意を決したように口を開いた。
「ねぇ、お父様。
朝食にお得意のポーチ・ド・エッグ、作って差し上げたら?」
「千鶴子様のお口に合えば……」
増田が、優しく千鶴子を見つめた。
「まぁ、試してみるさ」
と、そっけなく答える千鶴子を見つめる綾の瞳は、なんとなく潤んでいる。
「羨ましいね、チズさんは。
こんなにみんなに心配されて、生きてる甲斐があるってもんだよ。
それに引き換え、あたしなんて、死んで喜ぶ奴の方が多いってのにさ……」
泣いたような笑ったような、そんな複雑な面持ちで昌子が呟いた。
「何言ってるんだよ、あたしが悲しむよ。
十人分位まとめてね」
千鶴子は昌子の手をしっかりと握りしめ、そう言って笑った。