もてまん



その日の夜から、増田と千鶴子の共同生活が始まった。



増田は千鶴子に怒鳴らながらも、側に寄り添い離れなかった。


「なんだか千鶴子さん、わざと父を遠ざけようとしてるみたい」

と、綾は繁徳に言った。

それでも、繁徳が見たところ、数週間経った頃には、二人の息はぴったり合っていたように思う。

毎晩、夜八時過ぎに様子を見に行く繁徳に、千鶴子さんは時折買い物を頼んだ。

朝食用の卵だ。


「今日は増田が買い忘れているみたいでね」


と、決まって千鶴子は言った。

冷蔵庫をきっちりと半分ずつ、使用権を分けて使っていた二人だが、いつも中身を確認していたのは千鶴子だったのだ。

千鶴子は、そっけない口ぶりの割りに、いつも増田のことを気にかけていた。
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