もてまん
舞の危機
秋も深まり始めた十一月の初め、
バイト帰りに立ち寄ったマンションの六〇一のインターフォンの向こうから、千鶴子の慌てる声が響いた。
「繁徳かい?
早く上がってきておくれ、舞ちゃんがたいへんなんだ」
夜の八時。
この時間まで、舞が千鶴子のマンションにいることは、いつもならあり得ない。
予備校帰りの一~二時間練習をすると、門限六時の舞は急いで家に帰るのが常なのだ。
エレベータで六階に上がる。
下りると早足で六〇一に進み、扉を開けた。
最近では、千鶴子は玄関ドアに鍵をかけない。
夜遅く増田が帰るということもあるが、舞や繁徳、それに時折尋ねてくる昌子を迎えに、玄関まで出てくるのが体力的に辛いのだ。
繁徳は、扉を開けると、白い大理石の床に小さな血痕が点々とついているのに気がついた。
そして……
脱ぎ散らかされたスニーカー。
「舞!」
と、思わす叫びながら、繁徳は居間に駆け込んだ。
そこには、千鶴子に抱きかかえられて泣きじゃくる舞の姿があった。
「血が、玄関に血がついてた。
舞、どこか怪我してるのか?」
泣きじゃくる舞の姿を、繁徳は注意深く上から下へと目を凝らして見た。