もてまん

「そしたら、ママが、すごい剣幕で待ち構えてて……

あたしも、最初は下手に出て、ごめんなさいって謝って、

毎日街をブラブラしてたとか、図書館で時間潰してたとか、思い付く限りの当たり障りのない言い訳をしたの。

でも、ママは信じてくれなくて……

『男が出来たに決まってる。舞もあたしを裏切って、捨てていくのね』って。

誰にも話したことなかったんだけどね、あたしが小学校六年生の時、パパが浮気したんだ。

会社の部下の若い人と。

浮気がバレて、パパはママに謝って、その人は会社を辞めて、パパはママの元に戻って来た。

あの時と同じなの、ママ。

あの日、浮気がバレた日、丁度日曜で、あたしとパパとママがいた。

ママが血走った目で


『あたしを裏切って、捨てる気なんでしょ』


って、大きな裁ちばさみを持ち出してパパに向けたの。

あたし怖くてパパにしがみついた。

そうしたら、ママ、その鋏を、刃を下に向けて持ち替えて、椅子の背中に大きく突き刺したの。

しがみついたパパの身体が恐怖で硬直するのがわかった。

その日から、パパはママに何一つ口ごたえしないの。

全てママの言うがまま。

そして、ママは、今日、あたしにその鋏を向けたの」


舞の瞳が潤んだ。
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