もてまん



「あんたのママは、きっと心の病気なんだよ」



千鶴子が、静かに言った。


「病気?」

「そう。心も病気になるのさ」


千鶴子が優しく舞を見つめる。

病気なんだから仕方がない。

そのことは早く忘れることだね、とでも言っているように。


「先ず、この頭をなんとかしないとね。

外に出られないだろ。

あたしに切らせてみるかい?」

「千鶴子さん、どうするつもりですか」

「どうするって、切りそろえるのさ。

とりあえず、切りそろえて、明日にでも美容室へ行けばいいだろ」


(千鶴子さん、問題はそこじゃないだろ?)


繁徳は、何で今、千鶴子が髪にこだわるか理解できなかった。

敢えて、問題の核心には触れず、今のこの状況を取り繕うような、そんな千鶴子らしくない振る舞いが理解できなかったのだ。


「お願いします」


そんな繁徳の心配とは裏腹に、舞は落ち付いて、そう答えた。

舞は千鶴子を、全面的に信頼しているようだ。


「大丈夫、あたしゃ、結構こういうの上手いんだ。

でも、随分とバッサリ切ったもんだね」


千鶴子は、舞のくしゃくしゃになった髪を指でほどきながら、マジマジとその具合を眺め見ていた。
< 282 / 340 >

この作品をシェア

pagetop