もてまん
「あんたのママは、きっと心の病気なんだよ」
千鶴子が、静かに言った。
「病気?」
「そう。心も病気になるのさ」
千鶴子が優しく舞を見つめる。
病気なんだから仕方がない。
そのことは早く忘れることだね、とでも言っているように。
「先ず、この頭をなんとかしないとね。
外に出られないだろ。
あたしに切らせてみるかい?」
「千鶴子さん、どうするつもりですか」
「どうするって、切りそろえるのさ。
とりあえず、切りそろえて、明日にでも美容室へ行けばいいだろ」
(千鶴子さん、問題はそこじゃないだろ?)
繁徳は、何で今、千鶴子が髪にこだわるか理解できなかった。
敢えて、問題の核心には触れず、今のこの状況を取り繕うような、そんな千鶴子らしくない振る舞いが理解できなかったのだ。
「お願いします」
そんな繁徳の心配とは裏腹に、舞は落ち付いて、そう答えた。
舞は千鶴子を、全面的に信頼しているようだ。
「大丈夫、あたしゃ、結構こういうの上手いんだ。
でも、随分とバッサリ切ったもんだね」
千鶴子は、舞のくしゃくしゃになった髪を指でほどきながら、マジマジとその具合を眺め見ていた。