もてまん
「それが、色々あって……
兎に角、千鶴子さんは繁さんのお嫁さんだった人だよ」
「千鶴子……そう言えば、そんな名前だったな」
正範が思い出の彼方にある記憶にたどり着いたようだ。
繁徳はそれから、食事もそっちのけで、千鶴子との偶然の出会い、それからの出来事、舞のこと、そして千鶴子の病気のことを二人に話した。
二人は並んでソファに座り、時折頷きながら、繁徳の話を静かに聞いてくれた。
「で、その舞さんは今、千鶴子さんと一緒にいるんだな」
正範が深く頷くように確認した。
「うん」
「千鶴子さんの体調はどんな具合なの?」
幸子が心配そうに尋ねた。
「俺、毎日見に行ってるけど、婆ちゃんよりは良いかな。
そんな苦しそうな様子は見せないし」
「そう……でも、心配ね」
「繁おじさんのお嫁さんだもの、家にとっても親戚よ」
「そうだな、数少ない、な。
でも、その千鶴子さんが、毎年繁おじさんの墓参りに来てくれてたんだとしたら、お袋が知らせていたとしか考えられないな。
お袋は生前からあの墓所を買い求めて、死に支度をしていたんだ。
彼女のことも気にかけていたのかもしれないな。
繁徳、何かあったら、直ぐに父さん達に知らせるんだぞ」
「婆ちゃん、自分で墓、買ってたのか……」
(さすが姉弟だな、婆ちゃんと繁さん)