もてまん
「まぁ、そういうの、死に急ぐって嫌う人もいるけどね。
お母様の場合は覚悟の上っていうか、色々考えられてのことだと思うわ」
「俺はどっちかって言うと、今は、千鶴子さんより舞の方が心配なんだけど……」
繁徳は話を舞に戻そうと、呟いた。
「父さんが考えるに、舞さんの事は、千鶴子さんが言うように、その増田さんって方にお任せするのが一番良い方法だと思う。
音楽の才能云々は素人には分からない。
そう言う権威のある方に説得されれば、舞さんのご両親も納得なさるんじゃないかな」
「そうかな……」
「只、心配なのは親子の関係がこじれちゃわないかってことね」
母が繁徳を心配そうに見つめた。
「舞さんみたいに、ずっと親の価値観を押し付けられて生きてるとね、ある時ぷつんと緊張の糸が切れちゃうの。
もうこれ以上は耐えられないってね。
母さんがそうだった……」
「母さんが?」
繁徳は二人の顔を交互に見た。
これが、正範が繁徳に言っていた、母幸子の隠された家庭の事情なのだろうということは容易に推測できた。
正範が繁徳を見て、静かに頷く。
そして、二人は幸子が話を続けるのを待った。