もてまん
「私の両親、特に母はね、私を思い通りに育てることに全身全霊をかけてたの。
子供の頃から、厳しく躾けられて育ったわ。
中学からは、規律の厳しいミッション系の女子校に入れられてね、学校と家の往復の毎日。
寄り道も許されなかった」
「うわぁっ、それ凄いね」
「でもね、高校出たら少しは自由がある筈だって、僅かながらの希望を持ってたの。
大学にも行きたいって。
好きな所へ行って、いろんな人に会って、素敵な恋をして……
そんな、夢を描いてた。
母さん、成績は良かったのよ。
ところがよ、高校三年の秋、母がお見合い話を持ち出してきて、卒業と同時に結婚って言われてね」
「十八、で?」
「そう。
もう目の前が真っ暗になって……
母さん、家出したの。
もうどうにでもなれって感じ。
そのまま身を持ち崩して道端で死んだとしても、その方がまだましだって思った」
「で?」
「一日中歩いて、何処へ行こうって考えて、考えて……
たどり着いた先は、なんと学校だったのよ。
母さんには、そこしか行くところが思い浮かばなかった。
そりゃそうよね、学校と家が母さんにとっての全てだったんだから。
別に母さんはクリスチャンじゃないけどね、学校のチャペルに忍び込んで十字架を眺めながらぼぅっとしてたの。
そしたら、物音に気づいて、奥から神父様が出ていらして……」