もてまん

親はあたしの希望を、快く思って了解してくれたわけじゃぁなかったのさ。


『嫁に行く時の持参金として貯めてあるお金がある。

それを遣るから、フランスでもどこでも行っておくれ』


って……そう言うんだよ。

どういう意味か分かるかい?

もう二度とこの家には帰ってくるな、って言うことさ。

さすがのあたしもびっくりしたよ。

いくらあたしが『行かず後家』の歳になったからってさ、親があたしをそんな厄介者扱いしていたなんてね。

『ゆくゆくは、弟が実家を継ぐことになる。

あんたがフランスだかどこだかわからん外国へ行って、その先で野たれ死んだらそれまでだけど、なまじ戻って厄介かけるようなことになったら、弟に申し訳ない』

だとさ。

そこまで言われて、かえってあたしゃ家を出る決心がついたよ。

持参金もらって、こっちから勘当してやった。

あの時から、岩下の家の敷居はまたいでないし、これからもそのつもりはないよ。


それで、フランスへ行ったのかって?


よく聞いておくれだね。

そうさね、私も若かったよ、親への意地もあったしね。

その足で家出して、学校に退職願を出して……

あんまり急いで事を運んだんで、色々迷惑もかけたね……
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