もてまん
「幸子……」
正徳は幸子の手に自分の手を重ね、その名を呼んだ。
「繁徳の秘密も分かったし、父さんの悩みも分かったしね。
何だか、家族がまた一つになって、再出発って気分。
これから、何年後かの冒険に向けて、母さんも社会復帰するかな……」
と、幸子が笑う。
「社会復帰って、おまえ……」
正徳が驚いて聞き返した。
「食堂の賄いおばさんとか、道路工事の交通整理員とか、思いっきりサバイバル的なやつ。
どこへ行っても生きて行けるって、正徳さんに証明しないとね」
「幸子……」
正徳の目が潤む。
(あぁ、見てらんないよ)
「俺、もう遅いし、先に寝るわ」
繁徳は二人の邪魔をしないように、と慌てて一人、自分の部屋へと上がった。
(舞には、俺が付いてる。千鶴子さんも、増田さんも)
幸子と同じように、親の愛を疑って、それでも親を捨て切れない舞。
(わかってるよな、一人じゃないって)
でも……と繁徳は思った。
(親に愛されない人生の虚しさって、どんなものなんだろう?)
幸子と舞の傷ついた気持ちを思って、繁徳はベットに横になりながら、いつまでも暗闇を見つめていた。