もてまん


(女って、無責任な生き物だよ。

ランデブーね)


まさか、そんな話をサトチンが舞の母親にしたりしてはいないかと、繁徳はそっちの方が心配だった。

予備校の帰り、繁徳はバイト先に立ち寄り、バイトを休ませてもらった。


(バイト、どころじゃないよな、やっぱり)


繁徳は千鶴子のマンションへ急ぐ。

風除室に入ると、六〇一のボタンを押した。


「は~い。シゲ?」


と、舞の明るい声が、風除室に響いた。


(何だ、案外元気そうだ)


「うん、俺」

「今、開けるね」


ドアがカッチっと音をたてて開く。

繁徳は真直ぐにエレベータに向かった。

玄関のドアを開けた舞は、短く切った髪を揺らして繁徳に見せた。


「どう? シゲ」

「あぁ、いいんじゃない。前より舞らしい」

「そうかな、あたしも結構気に入ってる」


舞が嬉しそうに笑う。


「千鶴子さんも切ったんだよ」

「えっ、千鶴子さんも行ったのか、美容院」

「へへ、一緒にね。

ほら、そこ出てすぐの美容院、千鶴子さんの行きつけなんだって。

だから、二人で行って来た」
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