もてまん



居間に入ると、すっかり綺麗にになった千鶴子がいた。



やはり髪を短く切って、染め、ゆるくパーマをかけてフワリと髪をまとめている。

五歳は若返って、元気そうに見えた。


「千鶴子さんも、切ったんですね」

「そうだよ。

どうだい?

短い方が何かと楽だしね」

「そうそう、洗って乾かすのも、一瞬だよ。

シゲはいつも楽してんだね」

「俺と比べるなよ。俺は男だぜ、男はこれが普通なの」

「女はいくつになっても、身奇麗にしてないとね。

やっぱり、気持ちがすっきりするよ」


千鶴子も妙に寛いでる。

女という生き物は、髪切りに美容院へ行くだけで、こんなに気分も変われるものなのか、と繁徳は今更ながら驚いた。


(まったく、理解不能だよ)


「ふふ、今日の朝食、ポーチ・ド・エッグ、美味しかったよ」

「あぁ、増田さんのお得意のやつ?」

「そう。

卵がトロットしてて、デミグラソースが掛かってて。

あたしトースト二枚も食べちゃった」

「まぁ、確かにいけるね。

ただ、あんな面倒なもの、よく作る気になるよ。

あたしは目玉焼きで充分なのにさ」


(千鶴子さん、作ってもらって良く言うよ)


繁徳は増田が可哀想になった。
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