もてまん



「まあ、ランデブーもいいけどね、一時の感情に流されて、これから先の長い人生棒に振るのは、あたしの見てないとこでしておくれよ」



「千鶴子さん、冗談よ」

「冗談には聞こえないね」


千鶴子は、強い口調でそう言った。


「あたし達に任せておおきよ。

悪いようにはしないからさ」

「あたし、千鶴子さんを信じてます」

「それが良いね」


と、千鶴子は舞を見て優しく笑った。

(あたし達って、千鶴子さん、増田さんのこと言ってるのかな?)


「増田がね、今日いろいろ手配してる筈だよ。

舞さんから聞いた、お父様とお母様の連絡先にね。

あいつはね、学部長もしていたことがあるから、変わった親の対応には慣れてるのさ。

ほら、芸術家の家庭にはヒステリックな親なんて日常茶飯事だろ」


「そうなんですか?」


「みんな、ある意味、神経質で繊細だからね。

切れやすいのさ」


増田に任せておけば、全て上手く事が運ぶように思えた。

そうとわかれば、繁徳も舞も急に寛いだ気分になり、その場の雰囲気は和らいだ。


「あたし、練習してくるね」


と、紅茶を飲み終えた舞が席を立った。


「じゃあ、あたしは少し休むとするかね」


と、千鶴子が部屋へと消えた。

繁徳はひとり居間に取り残され、ソファに埋もれてまどろむ。


(昨日、遅かったからな、ちょっと眠いな)


静かになった部屋で、一人、繁徳もいつしか眠りに落ちていった。
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