もてまん


(うわぁっ、寝ちまったよ)


繁徳が目を明けると、もう部屋は薄暗く、陽は傾いていた。


「シゲ、起きた?

気持ち良さそうに寝てたよ」


胸元で舞の声がした。

見ると、ソファにもたれて眠った繁徳の胸に、寄り添うように舞が顔をうずめていた。


「シゲの心臓の音聞いてた……

ポクポクポクって、何だかあたしシゲの身体の一部になったみたいな気分」


胸元が熱い。

繁徳は、そうっと舞を抱きしめた。


「シゲ、シゲが望むなら、あたしシゲと何処かへ、ほんとに逃げてもいいんだよ。

途中で気が変わっても恨まない。

一晩で捨てられてもいい。

シゲが望むなら……」


舞の声が震えている。


「なんだ、舞、そんなこと考えてたのか」

「シゲ、怖いよ……」

「大丈夫、俺はずっと舞の側にいる。

今だけじゃなく、これからもずっとだ」


突然、居間の電気がパッと点いた。

振り向くと居間の入り口に、千鶴子が呆れた顔で立っていた。
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