もてまん
「二人して、何してるんだい?」
「何って、俺、寝ちまって……」
「さあさあ、離れた離れた。
あたしだって、恋愛に理解が無いわけじゃあないけどね。
今は舞さんの保護監督者としての責任があるからね」
「千鶴子さん……」
「二人には、幸せになってもらいたい。
だから、今が大切な時なんだよ。
繁徳、あんたはもう帰りなさい。
で、暫らくの間、ここに来ちゃいけないよ」
「来ちゃいけないって……俺だって、舞が心配だよ」
「舞さんのことはあたし達に任せなさい。
あんたが出てくると、話がややこしくなるからね。
大丈夫、上手くいくよ。
連絡するから、安心して待っといで」
千鶴子の言葉には、自身に満ちた響きがあった。
「シゲ……」
「舞、心配するな、千鶴子さんを信じたんだろ。
すぐ会えるさ」
舞のすがる様な声に、繁徳は気丈に答えた。
「お別れは、あたしの見えないとこでやっとくれよ」
千鶴子は二人を急き立てるように、部屋の外へ、玄関へと追いやった。
薄暗い玄関先で、二人は見つめ合う。
「さよならは言わない。すぐ会えるさ」
繁徳は舞の瞳をじっと見つめ、優しく頷いた。
舞が微笑む。
「シゲ、またね」
「あぁ」
繁徳は舞に触れたい気持ちを押し殺し、いつもと変わらぬ別れを告げた。
また明日、とでも言うように……
そして、玄関の外へと急ぎ出た。