もてまん
それから暫くの間、舞のいない予備校生活が続いた。
時折、サトチンが哀れむように繁徳の様子を伺いにやって来た。
舞のランデブーの行方はまだわからないらしい。
繁徳は千鶴子からの連絡をじっと待った。
二週間ほど経った、金曜の夜、繁徳の家の電話が鳴った。
電話口で幸子が何やら長いこと話し込んでいる。
お加減はいかがですか、とか、今度お邪魔させてください、とか。
で、舞さんは……と言いかけたところで、繁徳が受話器を取りあげた。
「母さん、いい加減にしろよ、俺に電話だろ」
「嗚呼、ごめんなさい。
でも、私も千鶴子さんとお話したくて……」
「後にしてくれよ」
「ごめん、ごめん」
幸子が両手を合わせるようにして、居間に消えた。
受話器を取って代わった繁徳が、電話口に出るなり、
「なんだい、繁徳、親に対してその口の聞きかたは」
と千鶴子のお叱りの言葉が飛び出した。
「だって、俺に掛かってきた電話だぜ」
「まぁ、に違いないね。
で、舞ちゃんだけどね、元気だよ。
万事上手くいってる。
明日、家へ来れるかい?」
「舞は?」
「舞ちゃんもいるよ。じゃ、二時に」
と、千鶴子はそれだけ言うと電話を切った。