もてまん
「早稲田の政経、止めたのかい?」
千鶴子がすかさず問い返した。
「第一志望、東工大にした。
父さんみたいな、研究者になりたいなって」
「そうだね、その方があんたらしいね」
「増田さんは、相変わらずここに?」
「あぁ」
「じゃあ、昼間、千鶴子さんは一人なんですか?」
「そうだよ」
「なら、僕、また時々様子見に来ていいかな」
「勉強、大変なんだろう?」
「バイトも止めて勉強に専念してるから、息抜きも必要だし、舞の様子も聞きたいし」
「あんたがそう言うなら、あたしは構わないよ」
千鶴子が力なく微笑んだ。
(何だか、元気ないな。具合、悪いのか?)
繁徳には知る由もなかったが、その時既に千鶴子は、胸の痛みを押し殺し、体力と気力の衰えを感じて自分の死期を予感していたのだ。
増田は、そんな千鶴子の様子を案じて、舞に綾と暮すよう命じていた。