もてまん
その夏、多磨霊園の繁と千鶴子の墓所には、キキョウの花を供える増田の姿があった。
「こんにちは」
一人、墓参りに訪れた繁徳は、増田の姿を見つけ声をかけた。
「嗚呼、繁徳くん」
増田が、その声に気づいて顔を上げる。
「増田さん、キキョウの花言葉、ご存知なんですか?」
彼が供えるキキョウの花を眺めながら、繁徳が呟いた。
繁が千鶴子にいつも贈っていたというキキョウの花。
「ええ。
〈変わらぬ愛〉でしょう。
千鶴子様から聞いていますよ」
「増田さんは、この花を千鶴子さんのために?」
「ええ、私の変わらぬ愛を、千鶴子様にね」
増田は、どんな気持ちで千鶴子にキキョウの花を手向けているのだろうか、と繁徳は思った。
最後まで心を開かなかった、かたくなな千鶴子に向けて。