もてまん
「あの……、聞いてもかまわないですか?」
「何でしょう、繁徳くん」
「このお墓は、繁さんと千鶴子さんが一緒に入っているお墓でしょう?
増田さんは、そういうの気にならないんですか」
増田は、一瞬、柄杓を持つ手の動きを止め、穏やかな顔で話し始めた。
「あの日、そう、舞さんとお二人で合格の報告にいらした日の夜、千鶴子様がわたしにピアノを弾いてくれと申されまして……」
「ピアノを?」
「そうです。
お好きだった、ラ・ビアン・ローズをね。
私がピアノを弾き出しますと、千鶴子様は私の横に座られて、ピアノに合わせて静かに歌い出されました。
絞り出すような小さな声でね。
私はお身体にさわらないかと心配で、ピアノを弾く手を止めかけますとね、それでも歌い続けられて……
で、私も千鶴子様の小さな歌声を邪魔しないよう、控えめにピアノを弾き続けたんです」
しゃべる言葉にも力のなくなった千鶴子は、どんな気持ちで彼に歌を歌って聴かせたのだろう。