もてまん
「そして、歌い終わると、静かに私の肩に寄りかかられ、
『あたしがこの七年、生きてこられたのは、あんたがいたからかもしれないね……』
と一言、言って下さったのです」
そう言って、増田は静かに笑った。
(それって、千鶴子さんのギリギリの愛情表現だったのかもしれないな……)
「私の名は〈茂〉と言うんですよ。
字は違いますが、千鶴子様の繁さんと同じ名前でしてね」
「だから、増田って呼んでたんだ」
(これが舞の言ってた、わだかまり?)
「そうかもしれませんし、それだけではないかもしれません。
今となっては、その理由を問う手立てもありません。
でも、そんなことはどうでもいいんですよ。
千鶴子様は私にとって、千鶴子様以外の何者でもないんですから……」
彼の顔は穏やかだった。