もてまん

「あたしと昌子さんの契約の話は以前しただろう?

あたしの命が、そう長いことないとするとさ、マンション売って、少しばかりはお金が残る算段なんだよ。

今の不況で、このマンションもそう高くは売れないとは思うがね。

で、昌子さんとも相談して、マンション売って、借金を差し引いて、もし残りが出たら、あんたにそれを残したいって思ってね。

元は繁さんの遺産で買ったマンションだし、あんたにも受け取る権利はあると思う。

まぁ、お金はあって邪魔になるもんじゃない。

たいした額にはならないかもしれないが、あんたの必要な時に使ってくれれば嬉しいよ」


後ろで、〈ピンポン〉とインターフォンの音が聞こえた。

慌ててスイッチを消すガサガサという音。


(嗚呼、千鶴子さんは、マンションで一人、毎日こんなことして過ごしていたのか)


続いて、また千鶴子の声が流れる。
< 334 / 340 >

この作品をシェア

pagetop