もてまん

「ピアノのこと、話しておくよ。

あのグランドピアノはね、繁さんとあたしが結婚した時、ジョセフィーヌが贈ってくれたものなんだよ。

繁さんが、ジョセフィーヌに頼んだのさ。

千鶴子にはピアノが必要だってね。

あたしが、繁さんにピアノを弾きながら歌ったって想い出話、覚えてるだろ?

あたしにとって、あのピアノは繁さんとジョセフィーヌの形見のようなものだった。

あたしが唯一、フランスから持ち帰ったものなんだ。

あんたに、ピアノを残したって宝の持ち腐れだってことくらいあたしにも分かってる。

でも、あんたには舞ちゃんがいるだろう?

彼女はあのピアノの価値を分かって、そして大事に弾いてくれるだろうよ。

そういう訳で、六年間、ピアノは倉庫に保管する手はずがとってある。

舞ちゃんかあんたのどちらかが、その後ピアノを引き取って欲しい」


(舞にはピアノか)


しばらくの無音の後、また千鶴子の声が流れてきた。
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