もてまん
夜十時過ぎくらいから街に出ると、通りを明るく照らす店がいくつも見つかる。

そこがキャバレだよ。

中からは歌声や楽しそうな笑い声が聞こえてきてさ、そこだけまるで昼間のように賑やかなのさ。

あたしは夜な夜な出かけて行っては、いろんな店に入ってみた。

女一人で入っても、カウンターで一杯やってれば、それほど目立たないしね。

ある晩、ちょっと裏通りに入ったところのキャバレに入った時さ。

そこは、なんか、い心地が良くてね。

明かりの具合かね……

暗すぎず、明るすぎず、一人ひとりの顔が見分けられるって感じだね。

そこで歌ってる歌手もそんなに若くなくてさ。

選曲もスタンダードが多くて……

あたしゃ、すっかりそのキャバレが気に入った。

で、それから毎晩のようにそこへ通ったのさ。

ある晩、なじみの歌手が急に休んでね、マスターが困った顔してた。

なんだい? 代わりに歌ったのかって?

良くわかるね。

そうだよ、何せ、ずっと歌ってなかっただろ。

もう、うずうずして、居ても立ってもいられなくて、後先考えず歌っちまったんだよ。

お客の反応はまずまずでね、チップが沢山集まった。

でもね、あたしゃ就労ビザ持ってなかった。

三ヶ月の間は働いたらいけないことになってたのさ。

マスターもそれ知っててね、

『日当は出せないけど、チップは取ってかまわないだろう』

って言ってくれてさ。

そうなんだよ、嬉しいことに雇ってもらえたのさ。

まぁ、日雇いだけどね。

その日から、週に何日か店で歌わせてもらえることになってね。

嬉しかったねぇ

それからは、飛ぶように日が過ぎってた。

丁度その頃さ、あたしがフランシスにあったのは……
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