もてまん

「フランスのパリって街はさ、都会なんだけどね。

朝、街角に市が立つんだよ。

分かるかい? お祭りの時の屋台みたいな、即席の店さ。

そこでは、採れたての野菜や果物、チーズやハムなんかを売っていて、みんなが朝、そこで買い物をするのさ。

週に何回か立つその市を逃すとね、その次の市まで、寂しい食事で過ごさなくちゃならなくなる。

都合のいいことに、あたしのアパルトマンの丁度真下が市場だった。

市が立ってる間は相当の賑わいでね。

流石に朝寝坊のあたしも、騒がしい人声で目が覚めた。

眠い目をこすって、急いで寝床から起きて買い物に出たものさ。

ところがある日、前の晩ちょっと飲みすぎて、寝過ごしちまった。

目覚めると外はもう静かなんだ。

あたしゃ、慌てたよ。

寝て、食べて、歌うことが、その頃のあたしの全てだったからね。
< 40 / 340 >

この作品をシェア

pagetop