もてまん
それから二人で店を出た。

彼はもう遅いから送るってきかなくて、あたしのアパルトマンまで話しながら歩いたのさ。

ほとんど、彼が一人でしゃべってたね。

フランシスはごつい見かけと違って、おしゃべりだった。

『明日は祝日だから、やっと今夜出歩ける時間ができた、

前からずっと君の歌を聴きたいと思っていた、

僕の叔母もシャンソン歌手だったから僕も歌が好きだ、

君の歌はすばらしい……』

って、ずっと一人でしゃべり続けてた。

あたしは彼の話を聞きながら、その人懐っこさに呆気にとられてた。

だって、あんまりも昼間の彼と印象が違ったからね。

で、はっと気が付いたのさ。

そう言えば、あたしは彼の名前もまだ知らないってね。

あたしは立ち止まって、聞いた。

『それで、あなたの名前は?』

ってさ。
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