もてまん
彼はあたしの声に振り向いて、
『そうだ、僕も君の名前を知らないんだ』
って、大きな声で笑いだした。
フランシスの大きな笑い声を聞いてたらね、あたしもつられて笑い出しちまった。
何だか、名前なんてどうでもいいような、そんな不思議な感じだったね。
『僕はフランシス、君は?』
彼の深い瞳に見つめられて、あたしは熱に浮かれたように答えてた。
『あたしは、チズコ』
『チズコ』
彼の口が、不器用にあたしの日本語の名を呼んで。
それからはごく自然に、見つめ合って。
彼の手があたしの肩にかかって。
キスをして、彼の力強い腕に抱きしめられて。
その日は朝まで一緒に過ごしたのさ。