もてまん

彼はあたしの声に振り向いて、


『そうだ、僕も君の名前を知らないんだ』


って、大きな声で笑いだした。

フランシスの大きな笑い声を聞いてたらね、あたしもつられて笑い出しちまった。

何だか、名前なんてどうでもいいような、そんな不思議な感じだったね。


『僕はフランシス、君は?』


彼の深い瞳に見つめられて、あたしは熱に浮かれたように答えてた。


『あたしは、チズコ』

『チズコ』


彼の口が、不器用にあたしの日本語の名を呼んで。

それからはごく自然に、見つめ合って。

彼の手があたしの肩にかかって。

キスをして、彼の力強い腕に抱きしめられて。



その日は朝まで一緒に過ごしたのさ。
< 47 / 340 >

この作品をシェア

pagetop