もてまん

「フランシスはね、日本でいう中学を卒業してすぐ、市場の仕事を始めたのさ。

真面目で働き者で、あの体格だろ。

その頃の彼は、付近の市場をいくつも仕切る親方だった。

だから、あたしの店にもなかなか来られなかったんだとさ。

でも、歳はなんとあたしの方が二つ上でね。

フランシスもびっくりしてたよ、あたしの歳を聞いて。

彼に出会って、あたしの寂しい生活は一転した。

毎日が夢のように過ぎていったのさ。

ただね、二人の仕事は朝と夜だろ、すれ違いが多かった。

朝あたしが起きるとフランシスはいない。

夕方フランシスが帰って、つかの間の幸せの時を過ごすと、直ぐにあたしは仕事へ出なくちゃいけない。

夜遅く戻ると、フランシスはぐっすり眠っていた。

あたしは、彼を起こさないように気を使って、一人でソファで寝たりしてね。

それでも土日は、二人で映画を観たり、街を歩いたり、一緒に食事をして。

幸せだった。
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