もてまん
ある晩、本当に店を休んじまったのさ。
フランシスと一緒にいたい一心さ。
フランシスがそんなこと望むはずはなかったのに……
何やかやと理由をつけて店に行こうとしないあたしをさ、フランシスは悲しそうに見つめてた。
あたしの不安定な気持ちに、薄々気づいていたんだろうさ。
いつもするように、あたしの目をじっと覗き込むと、あたしを引き寄せて抱きしめながら、優しくこう言ったのさ。
『僕は君にふさわしくない。
君は歌を歌うためにフランスに来たんじゃなかったのかい?
君が君でいられなくなるなら、僕は君のもとから去らなければいけないね』
ってね。
彼がそう言うのを耳元で受け止めながら、あたしは、驚きと悲しさで震えたよ。
フランシスはね、本当に思ったことしか口に出さない人だったから……」