もてまん
繁徳の目の前で、千鶴子の小さな肩が小刻みに震えた。
「フランシスはそう言うと、静かに部屋を出ていっちまった」
その声は掠れていた。
「戻って来なかったんですか?」
「そう。二度とね」
「あたしゃ、気が狂わんばかりだった。
でも、どうすることもできなかった。
追いかけていって、泣いてすがりつけば良かったのかね……
でもそんなことをしたら、フランシスはもっとあたしから遠く離れて行く、そんな気がしてね……
フランシスにしがみ付くような愛し方をした自分を呪ったよ。
そして、倒れそうな自分に鞭打って、あたしは歌い続けた。
歌い続けることで、あたしがあたしらしくいることで、フランシスがあたしを想い続けてくれるって信じてね。
辛かった。
しばらくは毎晩泣きながら歌ってた。
愛の歌を歌うと涙が出てね。
でもね、今思えば、あれは歌の神様があたしに与えた試練だったのかもしれないね。
それまでのあたしは、歌の上っ面しか歌ってなかったんだって、気づかせてくれた」