もてまん
二人は予備校でも、クラスは別々だった。
それでも顔見知りということで、舞は繁徳に時々声をかけてくれた。
一度、友達数人と連れ立ってボーリングへ行ったこともある。
(楽しかったな)
夏休み前の実力テスト、英語の成績が良くてクラスがひとつ上がった。
舞がそのクラスにいて、繁徳は驚いた。
初めて一緒のクラスになれたこと。
舞が実は自分より頭が良かったこと。
今更そんなことも知らない自分に驚いた。
(がんばんないとな、勉強も。二浪は、やばいしな)
繁徳が浪人したことで、家の中の雰囲気はぎこちなくなった。
父は、お前がちゃんとしないからだ、と母を責めた。
母は、休日も家にいない父を責めた。
繁徳はそんな諍いを、苦い思いで眺めていた。
勉強ができないんじゃなくて、しないだけだと声を出して言えなかった。
する目的が見つからないから、しないだけだとは言えなかった。
絵に描いた餅のような、志望校。
繁徳は言葉にならない苛立ちを、無気力という形で表現していた。
(でも、まあ、がんばんないとな。二浪は、かっこ悪いしな)
それが、唯一、繁徳の勉強する動機だったのだ。