もてまん
舞は、ちょっとびくっとして、女友達の方を振り向くと、
「ねぇ、みんな、シゲだめだって~ 年寄りの慰問だってさ~」
と、必要以上の大声で叫んだ。
(やめてくれよ、恥ずかしいじゃないか……)
「辛気臭さ~
シゲって、年寄りに好かれるタイプかもね~」
「まさか、そこで歌うたったりするわけ?」
「よせよ。仕方ないだろ」
繁徳は群れた女の物言いに閉口した。
ここで何か言えば、言うだけ状況は悪くなるのは確実だ。
繁徳はだんまりを決め込んで、前を向いた。
(何やってんのかね、ほんと。俺も素直にカラオケ優先させればいいものを……)
だが、繁徳にとって、約束を守るということはとても重要なことだったのだ。
どんな時でも、一度こうすると決めたら、それを守ることが最優先だった。
『初心忘れるべからず』
『初志貫徹』
『始めよければ終わりよし』
最初の決断に従うことが、その後に必ず良い結果をもたらすことになる。
それが、数少ない、繁徳の信条の一つだったのである。
ほかの女子は、繁徳のことをあっさりと諦め、ほかに誘う男子の相談を始めたようだった。
でも、舞だけはいつまでも名残惜しそうに、繁徳の方を何度も振り返って見ている。
そんな舞の様子を見て、繁徳はそれだけで嬉しかった。