もてまん
「ほかに女がいるとか?」
繁徳は、恐る恐る幸子に問うてみた。
「まさか! 父さん、そんなに器用じゃないから」
その返事に少し安堵しながらも、そう簡単には納得できない。
「じゃあ、なんで家にいたくないのかな? 倦怠期?」
(浮気じゃなけりゃ、倦怠期だろ)
繁徳は世間一般の常識に当てはめて、この事態を納得しようと試みていた。
「それがはっきりわからないから、母さんも不安なの。
父さんって、ほら、ちょっと思い込み激しいとこあるじゃない?
何か心配事があるのかもって、ちょっとね……」
繁徳は不器用な正徳の姿を思い浮かべ、幸子の言葉をそれに重ねて考える。
「案外、ほんとに浮気してたりして……
いや、不器用な父さんのことだから、本気かもよ?」
と、繁徳は否定しきれない不安を、もう一度幸子にぶつけてみた。
「それは、絶対ありえない!」
真剣な顔で否定する幸子を、繁徳は驚きで見つめた。
「信用してるんだ、母さん。父さんのこと」
「まあね。あれでも、昔は、母さんにぞっこんだったんだから……」
カウンターの上に、目玉焼きとプチトマト、そしてトーストの乗った皿が置かれる。
「コーヒーは自分で入れてね」
そう言うと、幸子は椅子に戻り、再び新聞を広げて読み始めた。