もてまん

幸子の中には、そう確信する沢山の理由があるのだ。

でも、その時、正徳にじっと見つめられた想い出が、幸子にとっては一番確かなものだった。


(そんな想い出ひとつで、父さんが母さんにぞっこんだったって、何十年も思い続けることが可能なんだろうか?)


繁徳の疑問は尤もだった。

だが、男と女の結びつきなど、案外単純なものなのだ。


(俺が舞を見つめた時も、舞に何か伝わったんだろうか?)


繁徳は、舞の長い睫毛を思い出した。

そして、舞の瞳の奥にある何かを思い出そうとした。

それは、いつもの舞とは全く別の、違う何かであったのだ。

繁徳は、もう一度、その瞳の奥の何かを見極めたい衝動にかられた。


(本当の舞って、瞳の奥にある何か、なのかもな……)


繁徳はコーヒーをすすりながら、そんな取りとめもないことを考える。
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