もてまん
「繁徳、今日はでかけるの?」
「午後から、友達とカラオケ行く」
とっさ、繁徳は嘘をついた。
俄かには説明しずらいし、変に誤解されても面倒だ、と思ったのだ。
「そう、たまには息抜きも必要だよね。
最近、あんたがんばってたから……
英語のクラス、ひとつ上がったんでしょう?」
「まぁね」
最近の予備校は、親宛に成績一覧を郵送してくる。
企業サービスの一環だ。
繁徳が家でたとえ何もしゃべらなくても、彼の成績は家族に筒抜けと言う訳である。
(まぁ、がんばったのが伝わってて良かったよ)
繁徳は自分の罪悪感を帳消しにする。
「じゃあ、昼、久しぶりにオムライス作ろうか?」
「うん、いいね」
幸子の上機嫌な様子に、繁徳は最近の気まずさが何処かへ消えたような錯覚を覚える。
「俺、シャワー浴びてくるわ……」
繁徳は立ち上がると、手際よくテーブルの上にあった三枚の空の皿を無造作に重ね、カウンターにさげた。
幸子が目で、カップもね、と合図する。
繁徳は、幸子のいつもの様子に安心し、カップをカウンターの上に並べて置いた。