もてまん
一時半過ぎ、繁徳は家を出た。
「行ってきま~す」
「行ってらっしゃい、気をつけてね」
繁徳が出かける時、幸子はいつも、何時に帰るのか聞かない。
帰宅時間がわからなくても、必ず食事の用意をするのが幸子の日課だった。
『男の子なんだから、ある意味、自立してもらわないとね。
……でも、ひもじい思いをさせる訳にはいかなわ。
それが母親の唯一の役目かもって思ってる。
……あれこれ細かく束縛しても、余計嫌われちゃうだけだと思うの。
あたし、そういう母親にはなりたくないのよ』
繁徳は、そう正徳に語る幸子の言葉を聞いたことがあった。
正徳は今晩もまた遅いだろう。
(今日は早めに帰って、一緒に夕食、食べるかな……)
喜ぶ幸子の顔を思い浮かべ、繁徳はそんなことを考えていた。