もてまん
「そんなことないですよ。
今日も女子達にカラオケ誘われたんだけど、断って来たんですよ。
千鶴子さんと約束したし」
「そうかい、そりゃ光栄だね。
いや、悪気はないんだよ、あんまり嬉しくてね」
少し間を置いて、
「それに、その髪型、似合うよ」
千鶴子が、繁徳を見て悪戯っぽく笑った。
「どうぞ、お上がりよ。今日は、マフィンを焼いたよ」
そう言うと、千鶴子は、今日もブーケを左胸に大事に抱え、廊下の奥へと歩いて行く。
繁徳は靴を揃え、急いでその後に続く。
奥の居間には、今日も甘い香りが漂っていた。
コーヒーテーブルの上には、お茶の用意。
そして、先週繁徳が持ってきたキキョウの花が、まだ生き生きと咲いていた。