もてまん
なんか突然で、きつねにつままれたみたいな感じだった。
マスターが言ってたのはこういうことだったのかって、その時やっとわかったのさ。
あたしも、歌を認めてもらえて嬉しかったしね、レコードが出れば、フランシスがもしかして戻ってくるかもしれないって、そんな馬鹿なことも考えたりしてた。
それからは、目が回るくらいの忙しさだった。
レコード出すっていうのは、ビジネスだからね、売れなきゃ困る訳だよ。
〈日本から来たシャンソン歌手〉
みたいなふれ込みで売り出すことに決まった。
まぁ、そこんとこがちょっと気にかかったけど、プロの言うことだからね、最初は言いなりさ。
オリジナル曲作って、タイトル決めて、いざレコーディングってとこまで漕ぎつけるのに、三ヶ月くらいかかったかね。
最初はシングル版かって? そう、よく分かるね。
あんたがた若い者にはシャンソンなんて、演歌みたいなものだろうから興味はないと思うがね、そこそこには売れたんだよ。
シングル版を何枚出したかね……三~四枚かね。
ジャックが、そろそろLP版でも出すかって、突然言い出した。