もてまん
オリンピア劇場は、約二千人収容の由緒ある大ホールさ。
舞台から見た景色が、そりゃあ美しくって、こう、荘厳とした感じでね。
兎に角、歌うっきゃないだろ、こうなったら。
ジャックと相談しながら、スタンダードナンバーを中心に選んで、中に自分のオリジナル曲を織り交ぜて。
なんとか一時間半ほどのステージを組み立てた。
あたしはそれまでの興行では、もっぱら一人で、ピアノの弾き語りで歌ってただろ?
だから、後ろにビックバンド従えて歌うのも初めてで。
そんなこと一つとっても、緊張したよ。
特別に頼んで、リハーサルを何度もさせて貰った。
で、ラスト曲の前であたしが客席に向かって、
〈わたしはピアフに憧れてこのフランスの地にやって来ました。ピアフの立ったこの舞台で、この歌を歌う機会をもてたことに感謝します。聞いてください〉
って、だいたいそんな風な意味の事を言う。
もちろんフランス語でだよ。
そして『ラ・ビアン・ローズ』を歌って幕を閉じる。
ジャックの筋書きじゃ、この部分をライブ録音して、アルバムの最後に入れるって話だった。
ジャックの演出は完璧だったよ。