もてまん


 ――――


あ、悪いね、ちょっと思い出しちまった。

結果はどうだったかって?

コンサートは大成功。

スタンディングオベーションさ。

拍手が鳴り止まなくてね……

なんか、会場の熱気に圧倒されて、足も震えてきてた。

その時さ、客席の一番前にフランシスの姿を見つけたのは……

歌ってる時は全然気が付かなかった。

だって、客席は暗いだろう?

立ち上がって拍手している姿を見てね、フランシスだって気づいたのさ。

嗚呼、聴きにきてくれたんだ、歌い続けていて良かった……

って感激で、もうどうしていいかわからなくなっちまって……

で、すがるような気持ちでステージの袖をふと振り向くとさ、ジャックが手を大きく振り回して呼んでるじゃないか。

あたしは、はっと我にかえってね、深々とおじきをして一度袖にひっこんだ。

するとジャックは、厳しい顔つきで、

『アンコールだ』

って一言いうとさ、またあたしを舞台に押し出した。

あたしは、バンドの伴奏にうながされるように、準備していた自分のオリジナル曲の〈旅路〉って歌をなんとか歌いきった。

あたしは、なんか興奮した気持ちとフランシスに会えた喜びで、もうぐちゃぐちゃでね、幕が閉じた時には、もう立っていられないほどに消耗していた。

倒れこむようにジャックの腕の中に飛び込んだ。

ジャックは、

『よくやった、すばらしかった』

って、しっかりとあたしを抱きしめて、頭を優しく撫でてくれたのさ。

その時が最初で最後だったね、ジャックに抱きしめられたのは……
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