もてまん
そんな中でもね、あたしはフランシスのことが気にかかって、いても立ってもいられなかった。
早く客席まで飛び出して行きたくてウズウズしてた。
でもジャックがいるから、じっと我慢して、そうっと袖から客席を覗いて見たのさ。
拍手がしばらく鳴り響いていたからね、まだ人の気配がしたんだよ。
大方の人たちは出口に向かって歩きだしていたけどね。
そう、最前列のちょっと右よりの席に、フランシスがまだ立ちつくしていた。
あたしは、今にも飛び出して行きそうになったよ。
でもね、よく見るとその横に、フランシスと腕を組むように金髪の綺麗な女性が寄り添って、フランシスに何か話しかけていた。
しばらくすると、フランシスが彼女の方を振り向いた。
そして何か話しかけると、手を軽く彼女の腰のあたりに回して、二人で一緒にホールを出ていっちまった。
恋人……だったのかもしれないね。
フランシスは正直な人だから、あたしのことを、きっとその彼女にも話していたんだよ。
どういう風に話したかは分からない。
だけど、二人は深く信頼し合っていて、あたしとのことも納得していて、だから二人で聴きにきたのさ。
あたしゃ、それがまたショックでね。
きっと涙でぐしょぐしょだったに違いないよ。
ジャックはさ、あたしが何で泣いてるのかわからないまま、それでも、抱きかかえるようにして楽屋に連れて行ってくれた。
そして、
『千鶴子、ゆっくり仕度をするといい。俺は外で待っているから』って……
こういう時、恋愛関係にないとドライでいいね。
まぁ、今になって思えば、それがジャックの優しさだったのさ。