もてまん

千鶴子は、食べかけのマフィンを口に放り込むと、静かに紅茶を啜った。

その視線の先にはキキョウの花。

「キキョウの花言葉はね、〈変わらぬ愛〉っていうんだよ。

後で知ったんだけどね。

あの当時、東洋原産の花を手に入れるのは、結構たいへんなことだったと思うがね……

夏になると繁さんは、必ずキキョウの花をあたしに送ってくれたものさ……」


「繁さんって、ロマンチストだったんですね」


「そうだね。でも、繁さんは、それと同じくらい、とことんリアリストだった」


「……どういう意味ですか?」


「それはね、彼の生い立ちに関係があるんだよ……」


そして、千鶴子は、優しい顔つきで、繁の思い出を語り始めた。
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