もてまん

「繁さんはね、あたしと違って、戦争孤児だったのさ。

あんた、立川の飛行場って知ってるかい?

そうそう、今の立川にある昭和記念公園だよ。

そこには昔、軍の飛行場があったのさ。

で、その周辺には飛行機製造工場がいくつもあって、繁さんのお父上は、その工場で技師として働いていたんだそうだよ。

戦争が始まると、お父上にも召集令状がきた。

運良くというのか悪かったというのかわからないけれど、お父上は召集後も立川の飛行場で整備士として働くことになったんだそうだよ。

幸い、お母上も近くの軍需工場で働いててね、たまにではあるけれど会いにいけるのが、何よりも嬉しかったって。

普通は召集と同時に生き別れる場合もあったからね。

でもご両親は、きっとこの近くに爆弾が落とされるに違いないって、自分達は逃げるわけにはいかないけれど、子供達だけはどうにか助たいと考えた。

で、終戦の前年の夏に、お父上の田舎に繁さんとお姉さんを疎開させたんだそうだ。

何で爆撃されるってわかってたんだって?

何言ってるんだよ、空軍の基地があったんだ。

敵軍から見りゃ、第一攻撃目標だ。

当然だろ。
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