もてまん
繁さんは、表向きは経済の勉強をしていたそうだけどね。
フランス文学にも興味をもってた。
そして、いつかはフランスへ行きたいって、その頃から思っていたんだそうだよ。
当時は〈自由の国アメリカ〉って皆が信奉していたけどね。
繁さんは、〈自由の国フランス〉って思ってたって。
ちょっと変わってたんだよ。
大学の四年間はアルバイトとお姉さんの援助でなんとか切り抜けて、そろそろ卒業って頃だった。
お姉さんに幸せが舞い込んだ。
勤めていた会社の上司がお姉さんを見初めて、是非息子の嫁にって言われたんだそうだ。
お姉さんは美人だったのかって?
美人っていうよりは、可憐なかんじの小柄な人だったね。
でも、小さい頃から家事を切り回してきたしっかり者だろ。
おまけにさ、叔父さんの件で進学は諦めたけど、お姉さんも随分な才女だったらしいしね。
会社でも、一目おかれていたのさ。
その上司の方も息子さんもいい人だったって。
繁さんもお姉さんの幸せを心から喜んだって……
でも、まだ安心はできなかったんだそうだよ。
繁さんは、お姉さんに子供ができるのをじっと待ったのさ。
自分も卒業後、商社に就職してね、フランス行きを密かに計画しながら、じっと待ったんだって。